記事一覧

「夜サバイバー」【mou-kara Real Estate vol.2】


「夜サバイバー」那須ジョン


人類のすべてをこの眼で見送って、俺のバスだけ全然こない

つり革に掴まって寝る人たちのゾンビのような向日葵のような

あか/きいろ/あか 出会うことの叶わない相手を思う点滅信号

靴の先少しのところに人が寝ており、ああここが君の廊下か

止まれの「止」の字はおそらく俺んちのベッドくらいの大きさ ほらな

電柱になるしかなかったたましいよ俺が創った話を聴けよ

「スクーターの鳴き真似します」「アヒャヒャヒャヒャ」「とても哀しい(とても哀しい)」

鼻で吸う空気が重い夜であり肺のあたりでちょうど晩夏だ

コンビニやインターネットのまっしろな明るさにたましいを囚われ

喧嘩したあとの静けさ二人掛けソファーもなんだか他人行儀で

外壁にとまった蝉が寝たことで木であることをやめられた家

コンビニのフォークがとても柔らかく何の肉にも刺さってくれない

「生きるのが前提だから生きづらい提案だけど押し付けますね」

浴槽で(鏡も見ずに適当に)前髪を切る火曜日の夜

いつだって体のなかには夜がある 臓器のなかでは肺が好きです

パソコンも不意にふぅっと寝たあとの暗闇あとの月の明かりよ

尖塔が見える部屋から(嘘じゃない)世界よ世界、平和であれよ






那須さん( @nasu_john )の歌は「ここがこうだからこう」とか「こんな表現にこんな気持ちになります」みたいなの抜きにして好きです。もう理屈抜きで好き。これはもうファンです。大事なことなのでもう一度いいます。わたしは那須さんのファンです。
そして、だからこそやっぱり連作を読んでムクムクわきあがってくるきもちはいくつもあるわけで。

おもわず絵を描いてしまいました。わたしはイメージなどの抽象画はすこし苦手意識があったんですけど、「夜サバイバー」の絵は気がついたらできあがっていて自分でもびっくりしました。お気に入りです。すごくたのしかった。

この「夜サバイバー」は、那須さんと矢波さん( @yanamitae )がおふたりで出している【モウカラ不動産 vol.2】に載っている連作です。
PDFで出力できるのでぜひぜひダウンロードしてみてください!すごいです。
短歌だけでなくエッセイや短いお話、素敵な写真やイラスト盛りだくさんで、ほんとうにどこかにお金を払わせてくださいっていうすばらしさです。そう、驚くべきことに無料なんですよ……無料……いいのかなほんとに……

そろそろvol.3も出るみたいです。しぬほど楽しみ。


人類のすべてをこの眼で見送って、俺のバスだけ全然こない

いきなりヒュンって遠いところに連れていかれる。人類のすべてを見送って、てすごく怖くないですか。かなしいとかさびしいとか使われていなくても、絶望をふつふつと感じさせてくれるところが好きです。
ぽつんとしたつぶやきのような下の句でまたグッと現実に戻ってくるんだけど、異世界みたいな空気はずっと消えない。ただバスに乗り遅れただけの歌には読めない。すごい。
あと、「眼」という漢字がいい。那須さんの歌は漢字の使い方がすごくかっこいいんですよね。かっこつけてないのにかっこいい、みたいな。もうこれは誰も超えられないところにあるかっこよさです。



つり革に掴まって寝る人たちのゾンビのような向日葵のような

前首をふまえると、バスの外からなかの「人類」を見ているととらえていいのかな。
「ゾンビのような向日葵のような」って頭ゆらしながら声に出して読みたくなる。やってみて、すごくおもしろいよ。ね?



あか/きいろ/あか 出会うことの叶わない相手を思う点滅信号

/がよく効いているなあとおもいました。点滅してるかんじがすごくする。信号がチカチカしていてもぜったいに走らないんだろうなあっていう目でぼんやり突っ立ってる主体がうかぶ。
二句と三句の句またがりが、出会えそうで出会えない感がでていて好きです。



靴の先少しのところに人が寝ており、ああここが君の廊下か

寝ている君はほんとうに人なのかな。
ぜんぜん意味はわからない。だけどここが君の廊下なんだねって納得はできる。ふしぎ。



止まれの「止」の字はおそらく俺んちのベッドくらいの大きさ ほらな

文法?的なことを言っちゃうんですけど、初句ですごく「止」まった感じしませんか。読んだとき、二句に入るまですこし多めに間を空けてしまいました。
勝手なイメージでは、初句でドアの前に立って、二句からそのドアを開けて歩き出して、最後に「ほらな」がくるっていうかんじ。むー、文章じゃうまく言えないんだけど、わかる?



電柱になるしかなかったたましいよ俺が創った話を聴けよ

この連作のなかでいちばんかなしいと思った歌。「電柱になるしかなかった」ってすごくかなしい。そんなたましいに聴かせようとしている話もぜったいにかなしい話だとおもった。
そしてまた漢字がぴったりですよね。



「スクーターの鳴き真似します」「アヒャヒャヒャヒャ」「とても哀しい(とても哀しい)」

わたし的に、前首の直接つづきな歌のイメージ。「俺が創った話」ではないんだろうけど、とても哀しいのにアヒャヒャヒャヒャなんて笑う。
無理すんなよ、泣けよ。



鼻で吸う空気が重い夜であり肺のあたりでちょうど晩夏だ

深呼吸でもしようとしたのかな。
晩夏の匂いってあるよね。鼻で吸った空気を肺で感じる様子が好き。



コンビニやインターネットのまっしろな明るさにたましいを囚われ

ここでパッと人工的な強い明かりが出てきて、ハッとした。信号とは違ってまわりを照らす義務のある明かり。


喧嘩したあとの静けさ二人掛けソファーもなんだか他人行儀で

居心地わるいよね。けっしてソファーに座っている状況ではないのだろうとおもいました。
息がつまるね。



外壁にとまった蝉が寝たことで木であることをやめられた家

これは着眼点がおもしろすぎて「おおお!」となった歌。そしてすこし前を振り返って、この蝉は電柱で寝るタイプの蝉なんだろうなあとおもったりした。
木でなくなった家は、家になった木のたましいなのかな。



コンビニのフォークがとても柔らかく何の肉にも刺さってくれない

コンビニのフォークって弱いですよね。弱いっていうか、もろい。安定感がない。肉に刺すためのものじゃない。
でも柔らかいっていうのとはちがう気がしたのでおもしろいとおもいました。弱くてもろくても、柔らかいなら何かを守れるのかもねって、そうおもいました。きっと刺したくなかったんだね。



「生きるのが前提だから生きづらい提案だけど押し付けますね」

すこし遠い世界での話だと思って読んできた連作のなかで、ギュンと胸が痛くなった歌。
そうですね、生きるのは前提ですね。だから多少生きづらくたって押し付けられることはあるよね。ウゥ



浴槽で(鏡も見ずに適当に)前髪を切る火曜日の夜

浴槽で!お風呂に入って湯船につかっているときに急に前髪を切りたくなったのかな。
読み返すうちに、(鏡も見ずに適当に)のカッコが浴槽に見えてきました。適当っぽいじゃん?



いつだって体のなかには夜がある 臓器のなかでは肺が好きです

これほんとうに理屈抜きで好きで、じつは手帳に書き写してる。意味不明な跳躍がすごい。
晩夏を感じたのが肺のように、夜を感じるのも肺なのかもしれない。



パソコンも不意にふぅっと寝たあとの暗闇あとの月の明かりよ

パソコンがふぅっと寝て、暗闇がきて、そして月でまた明るくなる。31音の中で3回も明暗を感じさせるのすごくないですか。それもすべてちがう明かりで、余韻がとても残る。


尖塔が見える部屋から(嘘じゃない)世界よ世界、平和であれよ

人類を見送ったときとおなじ眼をしているのかな。平和とは、みたいなことをすごく真剣に考えてしまった。
主体の生きている世界の夜を見たいと思った。おやすみ。



【モウカラ不動産】http://mou-kara.tumblr.com


ありがとうございました。つづきます。



スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

非公開コメント