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「J列-21番 コーラ」


生まれてはじめて好きなひとと行ったデートは映画だった。彼は大きいサイズのポップコーンを買ってくれて、ふたりで一緒にそれを食べながら映画を観た。確か、人類が滅亡してしまった地球にひとり生き残った主人公が奮闘するハリウッド映画で、わたしはすこし泣いた気がする。静かなエンドロールが流れるなかでその余韻に浸りきって、すっかり隣に座るひとの存在を忘れていた。
ぼんやりと劇場が明るくなってふと横を向いたとき、余ったポップコーンを必死にかきこんでいる彼と目があってわたしは笑った。映画が始まるとポップコーンを食べることなんてそっちのけだったわたしに余ったことを申し訳ないと思わせてはいけない、という彼なりの配慮だったらしい。そんな彼がなんだかかわいくておもしろくて、わたしもポップコーンをつまんだ。
もともとそこまで混んでいなかった劇場から客が去ったあとも、わたしたちはなんとなくふたりで席に座っていた。

「エンドロールのとき、」
残りのポップコーンを食べ終えて、彼がぽつりと言った。
「もう帰るかな、と思って横を見たんだ」
そっと目が合う。
「そのときさ、すごくまっすぐスクリーンを観てる横顔がみえて」
「うん」
薄いコーラ味になった水をすすりながらわたしはうなずく。
「好きだなあって、思った」
びっくりしたのと、そのとき抜群のタイミングで音楽が流れ始めてスタッフが清掃にやってきたのとで、わたしたちはそのままあわてて劇場を出た。顔が真っ赤なのは自分で分かったけれどどうしようもなくて、緩む頬を抑えながら右手をつないで歩いた。不自然に耳が赤くなっているこのひとが、すこしかさついた手のひらを持つこのひとが、わたしの恋人なのだと街を行く人全員に教えてまわる必要があると思った。

あの頃からもう何年経ったのかわからない今も、わたしは変わらず映画を観ている。隣でポップコーンを食べる人がいなくなった今でも、薄いコーラ味の水を飲み終わった後でも、エンドロールのあとはすこし席に残る。別に何かを待っているわけではないと思う。すこしだけ、小さな期待を持っているだけで。


まだ何かあるんじゃないかと期待するエンドロールの後の一瞬
(まほぴさん)






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