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【mou-kara Real Estate】2


「流れの遅い川」矢波多恵


光だと思った へなへな白線の上をなぞってうちまで帰る

川という結界を越えわが城は五メートルほど浮いて佇む

約束を破ってしまった日の夜は空から細い針が降りだす

あの人はB型だからとあきらめてくれたのならばこっちのもんだ

シャンプーとコンディショナーの均衡を気にしないなら他をあたって

渦を巻く排水溝をじっと見る多分私は不安でいたい

一分を計る尺度も違うのに同じ歩幅で歩こうとした

少しずつずれてく定め真夜中もメトロノームは刻み続ける

バファリンが効いてしまってさよならにちゃんと傷つくことができない

だれからも見上げられない真夜中にうな垂れている壁掛け時計

起き上がりこぼしになった夢を見てノーブラで出社しようと思う

夜は明ける日もまた暮れる結局はなんでも自分次第なんでしょ

川べりの正しい部屋から見る世界福岡タワーに金魚が泳ぐ

押し殺した分だけ私の亡霊が夜更けの窓にはっきり映る

風向きが変わって君が泣いている気がした 雨が降り出してきた

これはだれの涙だろうか川をゆく風を吸い込みふやけてく夜

宇宙では悲しみさえも漂ってしまう私は枕を濡らせる

街灯がゆわんゆわんと揺れている川辺で深く息を吐き出す





【モウカラ不動産 vol.2】に掲載されていた、矢波多恵さん( @yanamitae )の「流れの遅い川」という連作です。矢波さんは那須ジョンさんと大学のときからのお友達だそうで、こうしていっしょに短歌の同人誌を出しているのはほんとうにすごいなって思う。

そっとしておいてほしいときにそっとしておいてくれて、声をかけてほしいときに声をかけてくれるような、うまく言葉にできない心地よさが矢波さんの歌にはあります。
この「流れの遅い川」は夜をテーマに詠まれているんですけど、夜と川ってあわさるとこんな風になるんだ、とぞわぞわしました。すごく好きです。夜ってそれだけですこし詩的な要素を持っているけど、それをさらに色濃くしてくれるというか。そこに目をつける矢波さんの感性かっこいいというか。とにかくすごい。

あと!矢波さんはほんとに!とっても!とーっっても素敵な絵を描かれるんです。
線が柔らかくて色使いが細やかで、繊細な矢波さんの歌にとても合います。ほんとうにすてき。
しっかりとした絵画的な絵から、ポップなイラストまでかわいくって憧れます。

【モウカラ不動産 vol.3】の表紙も圧巻だよ。いつまでも見ていられる世界。



光だと思った へなへな白線の上をなぞってうちまで帰る

ぼうっと浮かんでくる光景がある。夜、アスファルトの真ん中を通る白い中央線はきっとすこし光のように見える。
車通りも少なくなった時間を独り占めして、それでもへなへななぞっている主体におつかれさまって言いたい。



川という結界を越えわが城は五メートルほど浮いて佇む

アパートに住んでいるのかな。川という結界、というのがおもしろいなあと思いました。
わたしの家の近くにも川が流れているんですけど、その橋を越えると「家まであとすこしだな」という謎のラインがあるんです。結界と考えたことはなかった。



約束を破ってしまった日の夜は空から細い針が降りだす

前の歌で上を見上げたままなイメージでいたので、その見上げた空から針が落ちてくる情景を思い浮かべました。
「針千本のます」とすこしかけてるのかな。空から針が降ってくるほうがましじゃん、と思ったけど、どこにいても避けられないちいさな棘はきっとずっと痛い。
約束を破ってしまった日の夜、という限定の仕方で心がギュッとなりました。



あの人はB型だからとあきらめてくれたのならばこっちのもんだ

B型に対してなんとなく厳しい目がある今の世の中ってなんなんですかね。
高校のともだちで「B型とはぜったい仲良くできない!」と豪語している子がいてすごく複雑なきもちでいたんですけど、あるときそれをぽつりと言ってみたら「B型と仲良くなれないっていうか、好きになれない子がみんなB型なんだよね」という答えがかえってきて、お前それほんとに意味わかんないし世間のB型にあやまれよ!って思いました。
わたしはB型ではないんですけど、べつに血液型を気にしたこともないです。それにしても血に型があるっておもしろいですよね。



シャンプーとコンディショナーの均衡を気にしないなら他をあたって

これ好き~~~~!!
上の句の「シャンプーとコンディショナーの均衡を」のリズムの良さサイコーです。
血液型の几帳面な話とかをすこし踏まえているのかな。いや~~理屈なしで好きなうたトップ10入りしています。
(ちなみにわたしはこれっぽっちも気にしないです)



渦を巻く排水溝をじっと見る多分私は不安でいたい

「多分私は不安でいたい」。
だれしも共感してしまうことじゃないかな。あ、と思いました。この「多分」がうまいよね。絶対と言い切らないところがいい。何もかもに不安がなくなった世界って、逆にどんな景色なんだろう。知りたいような知りたくないような。
多分わたしも、不安でいたい。



一分を計る尺度も違うのに同じ歩幅で歩こうとした

ぜったいにだめになると分かっていても、ぜったいにうまくいかないと分かっていても、それでも並んでみたいと思うことはある。歩こうとしたことが大切だと思う。たとえそれが周りからみたらバカみたいなことだったとしても、いっしょになだれこんでしあわせな気持ちなったことはうそじゃないと言ってください。


少しずつずれてく定め真夜中もメトロノームは刻み続ける

続けて読んでいくとつらくなって、それでもメトロノームの音を想い浮かべた歌。
メトロノームって、ネジを巻いて音を出すんですよね。そのネジが切れたら振り子は揺れていても音は鳴らなくなる。そしてだんだん振り幅も小さくなって、そして止まる。
あぁだめだ、やっぱり苦しい。



バファリンが効いてしまってさよならにちゃんと傷つくことができない

これも好きです……。リズムもとてもきれいで、バファリンが効いてしまったんですね、と頷いてしまえる歌。
いっそ傷ついて傷ついてぼろぼろになって落ちるところまで落ちてしまえたらいいのに、きっと何事もなかったように笑っているんだろうな。
ちゃんと傷ついたことが、わたしにはない気がする。



だれからも見上げられない真夜中にうな垂れている壁掛け時計

見上げられずにうな垂れる、って対照的でおもしろい。壁掛け時計って、長い間かけっぱなしで外すとそこだけ壁紙が色あせていなかったりするじゃないですか。そのときにやっとそこに時計がいたことに気がつくというか、なんていうか、うまくいえないんですけど、ハッとした気持ちになります。


起き上がりこぼしになった夢を見てノーブラで出社しようと思う

これはとてもわたしの中で盛り上がった歌です。声に出して笑った。じつは矢波さんの連作の絵はこの起き上がりこぼしから描き始めたんですよね。
わたしも起き上がりこぼしになった夢を見たらぜったいにノーブラで出社してやりたい。いつかやりたい。



夜は明ける日もまた暮れる結局はなんでも自分次第なんでしょ

そのとおりだ。わかっていてもくよくよ迷う。だけどほんとうにそのとおりだ。


川べりの正しい部屋から見る世界福岡タワーに金魚が泳ぐ

あ、そうだこの家は川の結界の向こうにあるんだった、とこの歌で思いだした。わたしは福岡タワーを見たことがない。正しい部屋もわからない。だけど金魚はわかる。


押し殺した分だけ私の亡霊が夜更けの窓にはっきり映る

なにを押し殺したのかはわからないけれど、亡霊になるようなことを押し殺したんだろう。福岡タワーの金魚をみたあとに押し殺してしまった分の自分の亡霊を見てしまったときの気持ちが、わからないのにわかる気がした。


風向きが変わって君が泣いている気がした 雨が降り出してきた

君が泣いている気がしてから雨が降り出してくるのがぼんやりいいなあと思った。すごいじゃん、なんか。雨が降ったから君が泣いている気がした、よりもつながっている感じがする。


これはだれの涙だろうか川をゆく風を吸い込みふやけてく夜

そしてその雨を君の涙だとは思わないんだ、思っていたとしても言わないんだ、と不思議だったけれど、そこで川を登場させるからなんだか納得してしまった。
ふやけてく夜って表現すきだなぁ。



宇宙では悲しみさえも漂ってしまう私は枕を濡らせる

漂わずにきちんと濡らせる、と一生懸命認識しようとしている「私」は、ちゃんと傷つけたのかな。悲しみって一度漂わせてしまうとなかなかやっかいですよね。


街灯がゆわんゆわんと揺れている川辺で深く息を吐き出す

「へなへな」からはじまって「ゆわんゆわん」で終わるのが、流れの遅い川なんだろうなって思うとすごくいい。どちらかと言うと息を詰まらせながら読んでしまった連作の中で、最後にほうっと息を吐き出すことができました。



はじめてこの連作を読んだのは夏だったのに、もう12月になってしまいました。夏の夜の印象が強い歌だけど、寒い今でもじんわりと沁みます。


【モウカラ不動産】http://mou-kara.tumblr.com/


すてきな連作をありがとうございました。

(一番はじめにかいた起き上がりこぼしの絵を載せておしまいにします。)





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